一九九九年度ベスト3
①『フィンランド駅へ』上・下 エドマンド・ウィルソン (岡本正明訳/みすず書房)
②『文化と帝国主義』1 エドワード・サイード (大橋洋一訳/みすず書房)
③『サバルタンは語ることができるか』 G・C・スピヴァク(上村忠男訳/みすず書房)
頑張れ、みすず書房みたいなランキングになってしまった。それより、三冊(じっさいには上下本があったので、四冊)合わせた値段はいくらだったとか、セコイことを書きたくなる。やめましょう。価格は内容の価値に、きちんと釣り合っているのです。
『フィンランド駅へ』と『文化と帝国主義』とは、それぞれウィルソン、サイードという大知識人の代表作である。「待望の新訳」とか銘打った代物は腐るほどあるが、これは別格。サイードは文芸批評かくあるべしの一方の水位を示す。ポストコロニアリズムの知識など本質的に無用なのだと知らせてくれる。『フィンランド駅へ』は思想史の体裁をとりながら、魅力ある人物たちが歴史の転形期に現われては去っていく大河叙事詩のように読める。歴史の無常観に流れるよりも、人間存在の潜在的な容量の豊かさに打たれる。
『サバルタンは語ることができるか』は、スピヴァクの邦訳された本のなかでは、いちばん平明でわかりやすかった。スピヴァクの雑誌特集もあり、日頃は読まない『現代思想』まで購入したのである。
本の雑誌2000.1
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