23 『複雑系ミステリを読む』
23 『複雑系ミステリを読む』 毎日新聞社 1997. 8 装丁本文組版 鈴木一誌

『これがミステリ・ガイトだ!』末尾のあとがき、九五年前後の段階でのミステリ・シーンの現状分析が、書き下ろし一冊に拡大された。意図はともかく、結果は必ずしも満足のいくものではなかった。もう少しうまく書けたはずなのにと思う。
原因はいろいろあるが、一つは、実作の11や13にも露呈しているところの、わたしの本格ミステリへの求心力不足だろう。
しかし振り返るに、この時点での早めの中間総括はやっておいて良かったと思う。三年後に考えてみても、日本ミステリーの現状は、原理的にあまり動いていないからだ。
目次 00 一国複雑系 京極系と『エヴァ』系の激突
01 フラクタルな冒険者たち
02 これもまた一つの自分探しゲーム
03 反世界からの招き
∞ 失われた世界像を求めて
これらのガイド本と、野崎六助の『これがミステリガイドだ!』(毎日新聞社)と『世紀末ミステリ完全攻略』(ビレッジセンター出版局)とを併読すれば、ここ十年のミステリ・シーンにおける<新本格>の浸透ぶりが俯瞰できる。前者は、野崎版『極楽の鬼』あるいは『地獄の読書録』といったところで、週刊誌に連載した九年分の書評をまとめたもの。また後者は、十五年にわたって書かれた、文庫の解説や諸雑誌紙への寄稿・時評の集成だ。約七〇枚にも及ぶ『眩暈』文庫解説は、『哲学者の密室』論も含みこんで、圧巻の一言につきる。
右の仕事を踏まえて、野崎によって書き下ろされたのが、『複雑系ミステリを読む』(毎日新聞社)である。これは<新本格>的作品を通して、時代状況を読み取っていこうとした長編エッセイだ。<複雑系ミステリ>というネーミングが印象に残るものの、その実態はやや曖昧。といのも、ここで取りあげられている三十作品それぞれに対する言及が、簡略すぎる嫌いがあるからだ。しだがって、どうしてもガイドブックのような印象を受けてしまい、村上春樹『アンダーグラウンド』、村上龍『ラヴ&ポップ』、そして『新世紀エヴァンゲリオン』の三つを通して現代社会像を描き出そうとした最終章との接点が、今ひとつ見えにくくなってしまっているように思われる。
横井司「ミステリ周辺書紹介」より 98本格ミステリ・ベスト10 東京創元社98.3
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