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40『安吾探偵控』

40『安吾探偵控』

40『安吾探偵控』

  東京創元社  1800円  2003.9.30刊  ISBN4-488-01295-7

  360ページ  装幀 北見隆



白川充

 また同じせりふから始めるが、今年もあまり読めなかった。本ミステリの書き手がふえているのだろうに、外してごめん。歌野作品で、久しぶりにだまされる快感を味わった。折原作品は白岡の「ドーバー警部」ものだが相変わらず巧み。ファンであります。二階堂作品、有栖川作品も堂々中堅本格派の風格と余裕をただよわせる。安心させてくれたところに好評価を。
 野崎作品はわたしの好きなアイデアもの。時代の裏づけも十分なされていてたのしめた。続編を安吾の捕物帖ふうに短篇連作でやれないものかな。

『本格ミステリ・ベスト10 2004』 原書房


中辻理夫のおすすめ 安吾探偵控
 ノスタルジーに酔える作品である。一老人の回想談を作者が小説風につづった、という形式を採っている。メイン舞台は昭和十二=一九三七年の京都。坂口安吾が大長編『吹雪物語』を執筆していた時期と重なる。単に当時の街並みや風俗、生活様式を再現しているからノスタルジックなのではない。安吾という実在の作家を探偵役に配していること自体が読者になつかしさと、ある種のうらやましさを感じさせる要因なのだ。
 安吾は明らかに小説が娯楽の王様だった時代に活躍した作家だ。文士、インテリという呼び名が格好良く聞こえた時代だ。本作では彼が殺人事件を解き明かす行動そのものが理想的な知的探求になっている。読者の側も、今、このミステリを読んでいる、という知的探求を何とも有意義な行為として心ゆくまで実感できることだろう。
 女系家族として代を重ねてきた造り酒屋で操り返される連続殺人が、安吾の前に立ちはだかる。容疑者候補は寝たきりの老婆、妖しげな三姉妹といった一族の者をはじめ、番頭、小間使の女、洒造りの職人たちと複数に上る。閉鎖的な一族を中心に据えた舞台設定は安吾自身が一九五〇~五二年にかけて発表した連作短編シリーズ『明治開化 安吾捕物帖』に通じる。ほかにも安吾の残した言説や作品名をところどころで引用しており.本作がオマージュ作品であるのは明らかだ。作者自身が知的探求の意義を確信しているのだろう。

『本格ミステリこれがベストだ! 2004』 創元推理文庫 2004.6

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