ロバート・リテルの復活?
『アマチュア 』2025 THE AMATEUR
監督 ジェームズ・ホーズ
主演 ラミ・マレック ローレンス・フィッシュバーン


ロバート・リテルの『チャーリー・ヘラーの復讐』(1981)が、再映画化を機に、新装再刊された。初訳は83年。
この作品は、原作刊行年にいちど映画化されている。主演は、ジョン・サヴェージ。公開されているが、不覚にも、知らなかった。
リテルの原作は、翻訳されたものはだいたい読んでいる。スパイ小説でありながら、登場人物が当事者意識のはざまに、傍観者的な感慨をもらす。つまり、パロディ志向といえる。この作品も、現場工作員としてはシロートの暗号解読専門員が共産圏国(当時)に潜入し、殺しを実行する、という話。オワライのように受け取れるかもしれない。
冷戦期の英国スパイ小説は、ル・カレ、デイトンといった正統派がいて、フリーマントルの窓際スパイ、チャーリー・マフィンのシリーズもあった。リテルは(スパイものには不向きといわれる)アメリカ作家だが、正統派の定型を皮肉る趣向においては際立っていた。旧時代の読物とはいえ、映画の予告編を観たかぎりでは、マレック(原作刊行の年に生まれた)は、これ以上はないほどの適役。まるで彼のために原作が書かれたような……。
読み返してみると、「アマチュア」的お遊びもふんだんだが、シリアスな隠し味も色濃いことに気づく。ひとつは、復讐というメインテーマ。復讐することによってのみ「人生を充実させる」ーー。主人公をはじめ、こうした情念をいだく人物が目立つ。それと関連して、ユダヤ人強制収容所の問題、戦後チェコ民主化運動への弾圧など、現代史のトピックが、副人物に託されてくる。
主人公が暗号解読に費やす思考は、ストーリー進行に関係なくても、多くページを占めている。最初のページには、家族への献辞が掲げられているが、これが何かの暗号通信であるらしいことに、作者は注意をうながしているのだ。
ところで、ここに名前のあがっているジョナサン(息子)が、後年作家となって『悲しみの女神たち』(2006)を書く。この作品のことは『北米探偵小説論21』の1138-42ページに言及があった。そのテーマは簡単にいえば、『アマチュア』のなかばのところに登場する生き残りユダヤ系ポーランド人の肖像に深くかかわっている。暗号遊戯とはまったく別の次元においてーー。



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